子どもと教育を守る

一斉学力テスト問題 詳細

2006.11.25

第3回東京都「一斉学力テスト」出題問題の分析と検討(中)

安倍「教育改革」のお手本、イギリスの「教育改革」の教訓

1.安倍「教育改革」は何を子どもと教育にもたらそうとしているのか
 安倍内閣で内閣官房副長官になった下村博文氏が、『中央公論』十一月号で安倍内閣のすすめようとしている「教育改革」について赤裸々に語っています。
 下村氏は、「教育基本法改正案をこの臨時国会において、できるだけ速やかに成立させる。ただ教育基本法が変わっただけで教育現場がかわるわけではない。教育基本法はいわば教育における憲法。学校教育法などの下部法令を合わせて変える」と述べたうえで、「教育再生会議」で「半年間を目途に一気呵成(いっきかせい)に結論を出す」として、「教育改革」の中身を次のように述べています。

■教員免許更新制で能力のない教員はやめさせる
 優秀な先生の給料を上げ、表彰をおこなう。能力のない先生にはやめてもらう。適正のない教師を排除できる実効性のある制度を検討したい。

■学校選択制を導入し、生徒の集まらない学校は廃校にする
 学校選択制を推進する。イギリスでは生徒が集まらなかった学校はいったん廃校にし、校長以下スタッフを総入れ替えした。再チャレンジだ。

■学校評価制度を導入、ダメな学校は廃校、先生には職探しをしてもらう
 国が定める統一的な基準で学校を評価する制度をつくる。基準に満たない学校は廃校にする。そのような学校に勤めていた先生は職探しをしてもらうことになる。

■教育バウチャー制度導入で、「勝ち組」「負け組」学校をつくる
 「100万円×生徒数」を目安に学校予算を配分し、校長が自由に使えるようにする。500人生徒がいれば5億円。こうすれば生徒を集めるための学校間競争が生じ、優秀な先生はふさわしい給与で迎えられるようになる。 

■チャータースクールで校長をチェック
 校長の権限が強くなると独断専行のおそれがある。経営者に対する「株主」が必要。地域の有識者10人ほどがこの「株主」になる。「株主」が校長と契約を結び、成果によって契約更新する。これがチャータースクールだ。

◆       ◆

 こういった具合です。下村氏は教育基本法改悪法案を準備してきた中心人物の一人で、改憲右翼団体の「日本会議」とも深い関係にある人物です。
 教育基本法改悪はこうしたとんでもない教育破壊をおこなう制約を解除するためのものです。これらにストップをかけ、子どもと教育を守るためにも教育基本法の改悪は断じてゆるされません。

2.イギリスの「教育改革」の実態 安倍首相はサッチャーの「教育改革」を持ち上げ、それをお手本に日本の「教育改革」をすすめると言っています(安倍晋三著『美しい国へ』文春新書 第七章「教育の再生」202ページ〜206ページ)。そこで、「イギリスの教育改革」について、在英のジャーナリスト・阿部菜穂子さんのレポート(『世界』 2006年6月号、11月号、『教職研修』2005年11月号)をもとにその実態を見ていくことにします。

(1)イギリスの統一学力テストは何をもたらしたか
 イギリスの教育改革の柱は、全国共通のカリキュラム(ナショナル・カリキュラム)と統一学力テスト(ナショナル・テスト)の実施です。テストは国が決めたカリキュラムを学校がきちんと教えているか、7歳、11歳、14歳で全員に実施。テスト結果は学校ごとに公表され、成績のいい学校は親に選ばれ予算がきちんともらえ、成績の悪い不人気校は定員割れとなり予算が減る仕組みを取り入れました。親が市場で商品を選ぶように、子どもの学校を選択することができるようにしたのです。これは、安倍「教育改革」のかかげる「教育バウチャー制度」と考え方は全く同じです。
 その結果、イギリスでは何が起こったでしょうか。(1)学校間格差の拡大、(2)成績のよい学校の近くでは不動産価格が2割上昇、(3)人気校には裕福な家庭の子どもしか通えなくなるという階層分化の促進、(4)テストとは関係ない教科、たとえば音楽・美術・情報技術などの教科が軽視される、(5)始業時間を早めたり昼休みを短縮するなど授業時間が急増、(6)子どもがテストのストレスで食欲不振や睡眠障害を起こす例が多数報告される、(7)事前に答えを教える、間違いを書き直させるなどの不正事件が4倍以上に急増、(8)小学校入学前から勉強することが強いられ勉強の低年齢化を招く、などの弊害が明らかになっています。
 東京の「一斉学力テスト」の実施と「成績」公表が、東京の子どもと教育にもたらした弊害と全く同じことがイギリスでも起こっているわけです。これらは「一斉学力テスト」がつくりだす万国共通の害悪といわなければなりません。

(2)本当に学力は向上したのか?
 イギリスでは政府が発表しているテスト結果について疑問が続出しています。
 例えばダーラム大学の調査では、1997年から2002年までの期間に算数では若干の向上がみられたが、英語の「読解力」ではほとんど変化がみられなかったといいます。また、政府が「飛躍的な学力向上がみられた」と宣伝していた1990年代後半には、実は判定基準が大幅に緩和されたり、難しい問題が姿を消して簡単な問題が増えたとのケンブリッジ大学の調査もあります。
 いま、イギリスの教育界では、一斉学力テストの結果は「学力水準の変化を監視するデータとしては信頼できない」(ダーラム大学)というのが常識になっているといいます。

(3)成績全国第1位の学校では
 全国一斉学力テストで全国第1位になったオックスフォード州のクーム小学校の校長・バーバラ・ジョーンズさんは、イギリスの学力テストは「確実に敗者をつくる不公正な教育体制」で「教育には市場原理の適用はなじまないし、間違っている」と、イギリスの教育行政を批判。「個々の学校の特色や規模、生徒の家庭環境などをまったく考慮せずに、どの学校にもナショナル・テストに関する非現実的な成績到達目標を課す今の教育体制は、とうてい正当化できるものではない」とも言います。そのうえでジョーンズ校長は、同校が全国一位の成績をあげたのは「政府指導をすべて無視した授業をしているから」だと、皮肉を込めてイギリスの「教育改革」を痛烈に批判しています。
 弊害が多すぎ、しかも学力向上につながらない一斉学力テスト。イギリスではテストを中止したり、根本から見直す動きが始まっています。その例をウエールズの動向について次に見ていくことにします。

(4)次々に見直しの動き
 イギリスでは、ここ数年、イングランド以外の地域で競争主義にもとづくテスト体制をやめ、子ども中心の教育をすすめようと、「教育改革」の見直しが始まっています。例えばスコットランドは、これまでも統一学力テストに反対し独自の教育政策をおこなってきましたが、現在は学習内容を減らし教師に大幅な自由裁量をあたえる教育改革を進めています。北アイルランドは、数年前からテスト結果の公表をやめ、2007年度までにテストを廃止することを決めています。

(5)おひざ元ウエールズでもテスト全廃へ
 ウエールズは一番イングランドに近く、これまでさまざまな政策でイングランドと共同歩調をとってきましたが、2001年にナショナルテストの結果公表をやめ、7歳児テストを廃し、2007年度までに全テストを廃止することを決めました。ウエールズの教育政策責任者は、「競争原理をもとにした教育体制から、子ども中心の教育」に立ち帰ることを明らかにし、「ナショナルテストは教師と生徒の双方にとって弊害が多すぎる」として「今後は生徒を中心に置き、教師の役割を重視する教育体制に移行する」と述べています。

(6)校長がいなくなる
 こうしたなか今年の5月、イギリス連合王国の小中学校長3万人で構成する全英校長会「NAHT」が年次総会でイングランドでのテスト結果の公表廃止を求める決議を全会一致で採択しました。この年次総会で、ブルックス書記長が「政治家は教育を遊び道具にするのをやめてほしい」と訴えると、会場は総立ちになり拍手がしばらく鳴りやまなかったといいます。
 こうした「教育改革」がつくり出した教育の荒廃の現状を反映して、学校現場では深刻な「校長不足」が起きています。イギリスでは、全国で1300近くの校長がいない学校があると推定されています。民間の調査機関の調べではここ2・3年、校長職への応募者数が顕著に減少。現職校長も仕事の困難さを理由に、定年前に早期退職を選択する人が急増しているといいます。また、イングランドの公的機関「イングランド教育評議会」が今春、1万人の教師を対象に調査したところ、「今後5年以内に校長職に応募したい」と答えた者はわずか4%。38%が「5年以内に教職を辞めているだろう」と回答しました。ナショナルテスト(一斉学力テスト)の成績公表には回答した教員の88%が反対したという結果が出ています。

3.市場原理から子ども中心の教育へ −イギリスの転換−
(1)子ども中心の教育へ
 すでにあちこちで破綻があらわになっているイギリスの教育改革の実像を阿部菜穂子さんのレポートをもとに見てきました。イギリス国内でもあらたな動きが始まっています。そのポイントは、「競争原理をもとにした現行教育体制から、子ども中心の教育に移行する」(ウエールズ)ことにあるといえます。イギリスは20年かかって、ようやく市場原理と競争主義・成果主義にもとづく新自由主義「教育改革」からの脱却・見直しにたどり着いたのです。

(2)教育基本法の理念は子ども中心の教育
 ところが日本では、逆にこの破綻があらわになっている新自由主義「教育改革」をさらに拡大・徹底化しようとしているのです。安倍首相はイギリスの「教育改革」を天まで持ち上げて、これをお手本に全国一斉学力テストを導入するとか、教育バウチャー制度の導入、国の監査官が学校や教職員を評価・査定する、教員免許制度を導入する......などの安倍「教育改革」を教育基本法改悪をてこに押しすすめようとしています。
 教育基本法は、子ども一人ひとりをすべてひとしく人間として大切に育てる教育をとおして人格の完成をめざすことをこの国の教育の目的に定めています。子ども中心の教育を教育基本法はすでに60年前に説いているのです。その教育基本法を改悪して徹底した市場原理・競争原理と国家主義を教育に持ち込もうとしている安倍首相らの改憲・改悪勢力。日本の子どもらと教育を守るために、子どもと教育の宝、教育基本法の改悪を断じてゆるしてはなりません。

◆       ◆

 阿部菜穂子さんは、このレポートの最後をこう結んでいます。
 上からの圧力に抗するのはイギリス教育の伝統だとして、「もしこのような強い反発力が現場にないところで、サッチャー時代から続く強力な教育改革と同様の改革が実行されたら、教師と子どもは本当に押しつぶされてしまうのではないだろうか」。
 日本に「強い反発力」があるかどうか、今そのことが試されているのではないでしょうか。
*「安倍『教育改革』のお手本、イギリスの『教育改革』の教訓」は、『教基法改悪阻止ニュース』で連載した「安倍『教育改革』のお手本、イギリスの教育改革の実像」に加筆修正し、あらためてまとめたものです。

V.東京都の「学力向上を図るための調査」
「関心・意欲・態度」の調査問題について

内田健一郎

1.子ども自身の「関心・意欲」を問うものではない
 全都一斉学力テストは、観点別の評価項目に従って問題が作成され、「関心・意欲・態度については、(中学校英語は異なりますが)小中学校の国語、社会、理科、算数・数学のそれぞれに、3問ずつ出題されています。そしてその設問は、いずれも、「あなたの考えに一番近いものを1つだけ選びなさい」というもので、すべて4択の形式をとっています。4つの選択肢には、それぞれ1つずつ、出題者が間違いと判断する項目を忍ばせており、それを選んだ生徒は、「関心・意欲・態度」に欠ける、と判断されることになるので、点数を上げるためには、それを避けなければならない、つまり、出題者の意図を予測して、間違いを探す 4択問題、となっています。「あなたの考えに一番近いものを」といいながら、実は、出題者がワクを作り、それからはずれるものを選び出すという仕組みになっており、児童・生徒自身の「関心・意欲」を問うものではありません。

2.中学英語ではむしろ「理解と表現力」の問題
 中学校英語の場合は、それとはやや異なりますが、この場合も、生徒の「意欲・関心」を問うというよりもむしろ「理解と表現の力」を問う問題になっています。英語の場合の「関心・意欲・態度」の問題は、ある事物について説明した英文を読み、それは何かを、4つの選択肢から選ぶという問題が3問と、与えられた英語の基本文を応用し、4文以上の英語による自己表現をするという問題の、2種類の形式になっています。前者の問題では、与えられた英文をまず「理解」しなければならず、正解は1つずつです。後者の問題では、与えられた基本文を「理解」し、それを正しく応用し、「表現」する力が試されます。「関心・意欲」があっても、これらの「理解」と「表現」の力がないと、結果が出せず、「関心・意欲」に欠けるという判断をされてしまうわけです。

3.そもそもこのような形式で問うこと自体が無意味
 「関心・意欲・態度の問題」と銘打ちながら、実際の問題は、出題者の意図を読みとる力や、教科の知識・理解を測る問題になっています。そもそも「関心・意欲・態度」をこのような形式で問うこと自体が意味のないことであり、「関心・意欲・態度」のよい生徒を集めたいはずの入試選抜で、このような形の問題がまったく採用されていないという事実は、このような問題では「関心・意欲・態度」を計れないということを示しています。統合された力として、相互に関連しながら働く学力を、分解して、要素ごとに数値化することが可能であると考えることは、テスト業者の商品開拓には役に立ったとしても、それは虚構の上の数字に過ぎません。
 児童・生徒が困難なく学習できる状態になっているか、教育を受ける心身の準備が整っているか、学習に対する適合と成熟の状態など、教育を受ける子どもたちの精神的・身体的準備状態を考える際、関心や意欲、動機の問題は、とても大事な要素として考えなければならないことですが、それは、出題者の意図のわくのなかで、関心・意欲が「ある・なし」と判定したりするものでも、その結果を数値化し得点とし、順位を競わせるなどのためのものでもありません。

4.二宮講演から「関心・意欲」の問題を考える
 子どもの関心や意欲、動機の問題と直接に関連していると思うのですが、第55次東京教研集会の記念講演で、二宮厚美先生が次のような指摘をなされています。
 「教育が営まれるということはどういうことか」のくだりで、「教師は、子どもの実態から、まず発達ニーズを知り、それを教材化して子どもたちに返す、しかし、実際には、子どもの発達ニーズと教材はたえずズレが生じ、教師の思い通りには行かない、しかしその思い通りに行かないという状態で、ふたたび教師は、その現実を理解して、違った教材を準備するとか、違った接近を試みる、ここに教師の専門性がある」。さらに、そういう教師の働きかけに対応して子どもたちはどういう能力を発揮するか、ということについて、「子どもたちは、教師の教育的働きかけを楽しんで受け止める能力、つまり楽しんで学校生活を送る能力を発揮する。この能力が高い子どもが伸びる」と、述べておられます。つまり、関心・意欲の問題は、まず一人一人の子どもから出発する問題であり、教師と子どもの間で繰り返されるコミュニケーションの過程でこそ、教育的な意味を持つものであり、出題者が測定し、数値化し、順位づけに利用したらいいなどという平べったい教育観とはまるでちがうものです。

5.具体例の検討
 以上のことは具体的に出題された問題を見るとよく分かります。いくつかの例を紹介します。 
○ 小学校・国語への関心・意欲・態度
 インタビューをするときにあなたはどのようなことに気をつけていますか。...あなたの考えに一番近いものを1つだけ選び、番号で答えましょう。
1.話の大事なことを聞き落とさずに聞き、メモを取るようにしている。
2.言葉づかいに気をつけて、ていねいに話をするようにしている。
3.相手がいそがしくても用意した質問は全部するようにしている。
4.前もって質問したいことを、メモに書き出しておくようにしている。 
○ 小学校・算数への関心・意欲・態度
 図形の学習でさらに調べてきたいことは次のどれですか。...あなたの考えに一番近いものを1つだけ選び、記号で答えましょう。
1.できる二等辺三角形で、角Aが大きくなるほど、角Bは小さくなるか調べてみたい。
2.できる二等辺三角形で、角Aが大きくなるほど、半径以外のもう1つの辺の長さが長くなるか調べてみたい。
3.できる二等辺三角形で、面積が同じ三角形がいくつできるか調べてみたい。
4.できる二等辺三角形を何色でぬればきれいになるか調べてみたい。
○ 小学校・社会的事象への関心・意欲・態度
 お祭りの写真です。町の人たちや子どもたちのようすを見て、やすおさんたちが話をしています。...あなたの考えに一番近いものを、1つだけ選び、番号で答えましょう。
1.町の人たちが協力してつくるお祭りが大好きなので、できることがあれば協力したい。
2.お祭りはにぎやかだが、準備が大変なので5年に1度ぐらいにしてもらいたい。
3.お祭りのほかにも、この町に昔から伝わっているものがあるかどうか調べてみたい。
4.これからもこのようなお祭りがいつまでも続くように、大切に守っていきたい。 
○ 中学校・自然現象への関心・意欲・態度
 台風が近づき、風雨が強くなりました。あなたならどのようなことをすればよいと思いますか。...あなたの考えに一番近いものを1つだけ選び、番号で答えましょう。
1.テレビなどの天気予報を見て、気象警報・注意報について確認する。
2.外に出て、風雨の強さを調べたり、川や海のようすを観察したりする。
3.雲の画像やアメダスなどの情報を見て、台風の進路について予想する。
4.まどをしめるなど戸じまりを確認したり、防災用品を点検したりする。 
 他の教科の問題も同様の問題です。「あなたの考えに一番近いものを」などといいながら、要するに間違い探しをさせる、あるいは出題者の意図に添わないものはどれかを考えさせるという問題です。小学校の国語では3番、算数では4番、社会科では2番、中学校理科では2番、これらを選ぶと、その子は「関心・意欲・態度がない」と判定されることになりますが、これでは正解を得ようとすれば、出題者の意図をくみ取る「実直な精神」に従わなければならず、本気で、「自分の考え」を突き詰めようとすると、迷ってしまって答えを出せない、ということになってしまいます。

VI.東京都の「学力向上を図るための調査」
「小学校・社会科」の調査問題について

村田洋

1.設問の出題傾向
 小学校社会の学力調査は、12の大設問と24の小設問で構成されている。その問題で、子どもたちを調べようとしている力は、学習指導要領の4評価の内容によって、24に分けられている。
 「感心・意欲・態度」の設問が少ないのは、その内容を、点数化することが難しく、回答の選択によって、調べることが困難だといわれていることと反映しているといえる。
 同様に、こうしたテスト紙(ペーパーテスト)を使った設問では、点数化しやすいといわれている「知識・理解」の内容が、他と比較して多くないのは、社会科の学力に対して、明確な考え方をもっていないことを表している。後でも指摘するが、4項目には分けているが、「知識・理解」に関する内容が設問の中心となっている。
 これらの設問は、5年生で実施しているので、設問は、次のような学習範囲から出題されている。地域学習は、3年生、4年生の学習範囲である。
 設問の数では、3・4年生の学習と5年生の学習範囲が半数ずつとなっている。こうした調査であれば常識的である。地図学習が、始めの2問に設定されているが、地図記号等は、3年生の地域学習の中で、絵地図づくりから、市・県の地図の中で学習することになっている。これらの学習は、各自治体発行の副読本を使って実践されているので、4年生で、地図帳を意識的に活用したり、5年生の最初の単元として位置づけたりしなければならないであろう。

2.設問内容の問題点
(1)「社会的な事象への関心・意欲・態度」を問う設問
 4、9(3)、12(2)のいずれも、4つの選択肢の中から、「あなたの考えに一番近い」意見を選びなさいという形式で、4つの中で3つは、正答とされている。誤答とされるのは、「お祭りの準備が大変」「自動車の開発はもうしなくてよい」「魚をどのように料理するか調べる」という他の3つと比較して内容的に誤りが歴然としている意見であり、本来期待される社会的な活動を伴った関心や意欲を判断できる問題とは言い難い。
 関心・意欲・態度といった活動や行動を伴うことを、テスト紙とすることに無理があると考える。
 いずれの問題でも、形式的な能力の把握にとどまるであろう。 
(2)「観察・資料活用の技能・表現」を問う設問
 1、2(1)、2(2)、8(1)、10(1)は、地図を読み取る設問である。8(3)(1)、9(1)、12(1)は、グラフ・表の読み取りの設問である。
 地図、グラフ・表の読み取りは、文科省の「読解力向上プラン」にも社会科での学習事例として取り上げられており、学力調査の実施が続くならば、今後も重点的な調査の内容となるであろう。これは、テスト紙としては点数化しやすく、比較することが容易にできるという要因もあると考える。設問数も必然的に多くなるのであろう。
 設問は、いずれも、「読み取る」設問であり、「資料の活用」「資料読み取りの技術」ということはできるが、社会科で多く実践されているフィールドワーク・調べ学習における観察やそれらの学習を表現する能力を問う設問は1つもない。
 1、2の地図の4方位、地図記号、等高線の読み取りなどは、資料活用よりは、地図学習の基礎となる知識として位置付けられるべき内容である。また、8、 10の日本地図からの読み取りもコメの収穫量や工業の問題を考えることは、地図の凡例で分かるが、都道府県名や瀬戸内海、太平洋などの場所を理解しているが前提となっている設問である。これらも、知識の内容となるものである。
 グラフ・表の読み取りは、複数の資料を比較して適切な内容を選択する設問となっている。この方法は、「資料活用の能力」を最もよく評価できる内容であり、テスト紙にしやすい内容である。
 しかし、これらの設問は、社会科学習で実践されているフィールドワークや調べ学習から、切り離された知識の定着を前提とした設問となっており、これらの設問が今後も続くことになると、社会科が持つ学習する楽しさ、調べるおもしろさよりも、知識を覚える学習が優先となる危険性が感じられる。 
(3)「社会的な思考・判断」を問う設問
 3(1)、3(2)、6(1)、7、8(3)(2)、9(2)、10(2)に特徴的なことは、選択肢が大変平板なことである。
 9(2)、10(2)に見られる「輸入、貿易のために外国とのつながりを大切にしよう」が正答では、世界と日本のつながりを狭い範囲でとらえることになり、世界を取り巻くさまざまな問題を考えることにはつながらない。子どもに期待している思考・判断のあり方自体に内容がないのではないかと考えさせられる。
 6(1)、7は、努力と協力が正答となっている。世界と日本同様、思考・判断のあり方自体が大変薄っぺらな内容であることを表している。 
(4)「社会的事象に対する知識・理解」を問う設問
 5(1)、5(2)は、東京都の土地利用の知識と景観の理解、6(2)は、県名の知識、8(2)は、稲作の理解11(1)、11(2)は、自動車工業の知識・理解であり、この学力調査の設問と4項目の分類の中では、無理のない項目の分け方になっている。本来、テスト紙として点数化ができるのは、この項目である。設問内容も、5年生を対象とした設問として無理のない内容となっている。
 「観察・資料活用の技能・表現」を問う設問の多くが、知識と理解を前提とした設問であり、学力調査全体の傾向として、知識・理解を問う調査になっている。

VII.東京都の「学力向上を図るための調査」
「小学校・算数」の調査問題について

森川みや子

1.学力テストの目的って何?
 今まで行われてきた学力調査は、PISAにせよIEA(国際到達度学力調査委員会)でもかなり慎重に行っています。IEAの場合について簡単に紹介しましょう。IEAは調査目的ははっきりしていて、それはカリキュラムをどうするかという事を考えるための調査なのです。そのため、IEAの調査内容はその国で行われているカリキュラムと無関係で問題を作成しています。もちろんそのテストは達成度調査でありません。そこでは、学習面でのテストだけでなく、学習環境の成績に及ぼす影響や教師の算数・数学指導観を探るなどいろいろな設問を設定して、それは周到な準備のもとに行われています。しかも、サンプリング数も統計的にきちんと処理して、標本調査として慎重に行っています。
 このIEAの慎重さと比較すると、今回の都の調査は、またしても昨年の批判など何ら聞き入れず、問題作成も民間業者に委託したまま実施しました。まさに子どもの学力も「市場主義」を貫き、民間任せです。問題作成、実施方法、テスト結果の分析、テスト結果の教育への反映など、どれ一つをとっても慎重さに欠けています。「学力テスト」の実施及びその後の取り扱いの全てが、子どもに直接的に影響を及ぼします。
 従って、出題する範囲・問題の作成・テストの実施方法・その後の考察まで含めて多くの都民の期待に応えるように実施して欲しいものです。

2.何を調査しようとしたのか
(1) 「4観点」の提示について
 全問を通して言えるのですが、どの問題にも「観点別の評価項目」が織り込まれています。そもそも「観点別」の導入は問題です。子どもに解かせる問題を予めこれは「数量や図形についての表現・処理」「数量や図形についての知識・理解」「算数への関心・意欲・態度」「数学的な考え方」と分けること自体が問題なのです。子どもはこの問題で自分の「数学的な考え方」が問われているという構えで問題を解いていないはずです。子どもは、いくつかの要素を交えて問題を解いているのです。またそれは評価される対象ではなく、問題をどのように解いたかを評価すべきなのです。この4観点での評価は全くもって非科学的です。
 予め4観点に分解して問題を提示するのでなく、その問題がなぜ、表現力を測定する問題なのか、見方・考え方を測定する問題なのか、それは問題のどこにそういう要素があるのか詳しい分析が必要となります。こういう分析なしで、4観点を提示したのは単なる評価の押しつけと言ってよいのではないでしょうか。
(2) 学級毎の指導の多様性の尊重はどうか
 算数テストの設問12(2)に台形の面積を、「今までに学習した長方形、正方形、平行四辺形、三角形の面積の求め方」に戻して求めさせるため、「直線を 1本だけかき入れて面積が求められる図形に分け」させる問いが用意されています。昨年と違って、今年はこの設問に対する解がたった1つだけ用意され、それを式を手がかりに、用意された図形に直線を1本書き入れさせるようになっています。採点者にとっては直線を正しい位置に1本書き入れたかどうかを見ればいいから簡単です。しかし、子どもの方は「なになに、この式に合うようにするには。そうか長方形と三角形に分けるんだな(もしくは、「平行四辺形と三角形になっているな」と)。あれ、この台形は見慣れた台形と上下逆さまになっている。三角形の面積を求める式の(2×5÷2)の5は高さのことか。とすると縦に線を入れるんだな」という思考過程が最小限要求されます。
 通常、台形の面積を求めるためには複数の手法があり、多様な子どもの考えを導き出そうと長年教師は授業を工夫してきました。一方、子どもの方も「台形の面積はいろいろな考えを出せるから面白い」と思っています。
 今まで私たちが授業実践で台形の面積公式を導くときに次のような様々な方法をとっています。
 ア)合同な台形を用意し、平行四辺形の面積公式を使えるようにする、いわゆる倍積変形といわれている方法を用いる
 イ)長方形に直接等積変形する
 ウ)台形の中線で台形を二分し、平行四辺形に等積変形する考えを用いる
 エ)対角線を使って2つの三角形に分割する
 さらに、現在では平均が6年生に移行したため、5年生では扱えませんが、「平均の考えを用いる」方法もあるのです。*数実研43回全国大会実践報告集に収録(私の実践)
 授業で、ウ)やエ)のような三角形の面積公式を優先させた指導を行った学級の子どもであったなら、問題文中にある「1本直線をひく」という意味を簡単に読みとることができると思います。しかし、上のア)やイ)の考えになじんだ子どもはこの設問の意味の読みとりに苦労したであろうことは予想ができます。
 私は、台形の求積を「平行四辺形+三角形」「長方形+三角形」の限定された2つの解き方のおすすめには疑問を感じます。
 現在教室授業で行われている方法は、子どもの多様な考え方を出す方法が主流です。これなら子どもは台形の求積を考える授業において「あっ、これ面白いんだよね。いろいろなやり方あって。ぼくにもできそうだよ」という算数が苦手の子にとっても算数のおもしろさに触れることのできる積極的な側面を持っています。
 上記のような問題に接したら子どもが算数嫌いにならないか不安になります。
 教師にとって指導法がこの設問ように限定されたら授業はどうなるのでしょうか。また子どもも台形の面積公式が分かったとしても、上記の思考過程を追うことができなかったらこの問題は解けないということになります。
 付け加えると、式を読む教育は現在は教科書に多く掲載されていません。
(3) 「数学的な考え方」を調べるような問題だったでしょうか
 仮に、「4観点に分けた問題提示」を了解したとしても、「数学的な考え方」については子どもの学力向上について私たち教師にとって日頃の教室実践に何らかの示唆を与えるような設問だったでしょうか、疑問です。
 例えば、台形の面積については上記の設問を作成した人が意図した範囲での多様な考えで求めることを指導する場面があるでしょうし、学級によっては(学級その中だけですが)学級で大事にしてきたある1つの考えに帰着させて、求めることができるよさを強調した指導が行われています。この後者の指導が行われた学級の子どもは、様々な場面で、ある1つの有効な考えに問題を帰着するための工夫をこらすよう思考の回路が働くでしょう。
 このように教室実践で大切な事は「思考の多様性の尊重」なのです。
 そもそも「数学的考え」は「多様な考え」を扱うことによってのみ育つのではありません。そのとらえ方自体に多様性があるのです。その意味でこの設問は「数学的考え方」をある方向で統一化させようとする働きを果たすことになり、学級毎の指導の多様性を失わせる危険性をもっています。
(4) 指導法までチェックできるのですが...
 ところで、この設問12(2)ような、多様な考え方で解くことができる問題では、
イ)子どもがどのようにこの図形を二分したのか、
ロ)それは子どもがどの面積公式になじんでいるためか、
ハ)それはどのような指導がなされたために起きた現象なのか、
 といった、指導のあり方を問い返すことができます。しかし、この設問の設定に際しては、このような指導法そのものの問い返しが個々の学級で行われることを想定していたのでしょうか疑問です。
 こうした、子どもの面積公式に対する認識の様子を調べる目的で入っていれば、この設問12(1)のように、まず基本となる図形の面積公式が使えるかどうかを問う問題の提示は重要です。しかし相も変わらずマス目で図形の提示は、公式を使わなくても求積を可能とする要素を含んでいます。マス目の多用は子どもの図形認識を育てません。
 こういった基本の問題とともに、子どもが使いやすいと考えている面積公式は何であり、またどのような考えでよくなじんでいる図形の面積公式を使おうとしているかを問う設問が用意されることも必要でしょう。その結果を考察することにより、この設問に対する子どもの解答がそれぞれの学級で行った教育活動が教師の意図にそって子どもが理解できているかどうかを判定するための目安になります。これでこそ、テストをする意味があります。
(5) ○×式解答方式の限界と問題のあり方
 子どもに問題を解かせるために、その準備としていくつかの考えを提示し、ある方向に意図する方向に誘導するということは必ずしも悪い方法ではありません。しかし、十分に選択肢が用意されていないときは、子どもの考えを多様に発揮させることにはなりませんし、子どもの思考の過程を知ることもできません。
 そうした例を設問13に見ることができます。円の半径を使った二等辺三角形について色々考えさせるような設問です。(設問13)
 この問は、その(1)を見ると、ゆみこさんの考え「辺ABを底辺とすると、角Aが直角の時に三角形の高さが一番大きくなるので、面積も一番大きくなるんだよ」が正解となるのですが、子どもは「高さが最大となる」という表現の問題に慣れているため、この問題ではそう簡単には正解にたどり着けない子もいるのではないかと危惧します。確かに直角の時には高さが最大となりますが、こういう設問は問題作成者の結論の押しつけのように思えます。自分はどう考えるのかは問わず、問題をいかに解釈するかを問う問題になっていて、子どもに不親切な問題と言えるでしょう。
 また、(2)に至っては、「奇問」としかいいようのない問題に思えます。全て正解としてもよいでしょう。「算数への関心・意欲・態度」をこれで調べようとするならこういう評価項目を考えた大人の方こそ問われるでしょう。子どもを愚弄する問題です。半径をいろいろな位置で考えることによりいろいろな二等辺三角形ができることを子どもに考えさせることは算数教育の目的から考えて大切です。しかし、設問(2)のように調べてみたいことを選択させる問題においてはどれを正解とするのでしょうか。子どもが大変迷った問題に違いありません。
 通常の授業においては子どものどんな疑問も取り上げるようにしていますが、ここではよりよい疑問を見つける問題となっています。「疑問を選択する」こういった事態に子どもは今まで出合ったことがないと言ってよいでしょう。
 一体全体、教師は「算数への関心・意欲・態度」を問うとき、低次元の関心と高次元の関心があることを区別しているのでしょうか。現場ではこういう手法は馴染みません。現場では、誘導式に与えた1つの考えが使えるかどうかを問うのでなく、多様な考えをする子どもに通常教育しているのです。
 その意味で、設問3についても同じことがいえる。この調査の設問(1)については問題作問に当たった人と同じ考え方ができるかどうかを「調査」はしていますが、それ以外の考えをする子どもがどの程度いて、そうした発想をする子どもはどのような教育によって育まれてきたのかについては何の情報もこの「調査」からは得られません。
(6) 問題解きに慣れていない子を考慮したか
 通常、ワークテストや算数ドリルなどの学校でやっているテストしか経験したことのない子にとって、公の出すテストは子どもの現状を反映したものになっているかどうかも検証する必要があります。一部の子には経験した問題でやりやすく、他の子には「こんな問題はじめて」ということだったらまさに「不公平」で公教育に反することです。
 この見地から考えると設問3や6は文章量が多く、こういう煩雑な問題になれていない子には大変だったのではないだろうかと気になります。設問3の(1)は正答が多く、正答率を上げるための問題ではないかと勘ぐってしまいます。
 また、設問6のような「概数」に関する問題は子どもが抵抗感を示す分野です。「およそ何万人になるか」について子どもは、「町毎に概数にして考えるのか」それとも「全部たし算して概数にするのか」この問題文だけで判断することを子どもに要求するのは難しいと思います。問題作成者は教科書の記述をよく見ているのかどうか疑問となる問題と言ってよいでしょう。子どものつまずきの多くは「どこの位で四捨五入するか」です。出題者はこれを知っているのでしょうか、疑問です。
 四捨五入の意味は知っていても実際のこういった問題場面で使えなかったら子どもの「算数への関心・意欲・態度」は減りこそすれ高まることはないでしょう。概数を取り上げるのなら「概数で考えると全体像がよりはっきりする」といった問題を取り上げて欲しいです。
(7) 何が数学的なのか見えてこないが...
 「数学的」について出題者はどう考えているのか疑問に思ってしまう設問7です。
 例を参考にして考えると「9・5は10‐0・5と考えるのだな」ということは類推できます。しかし、出題意図が「数学的」ということが気になります。整数で考えられていた計算が小数でもできるということは「数学における拡張」という考え方です。これをもとにすれば、95×8として考えそれを100で割るというように整数にして考えるという方がよほど数学的です。何が数学的かを一意とするような問題は公のするテストにふさわしくないと考えます。

3.悉皆(全数)調査のもつ問題点
 そもそも、学力調査の目的を、純粋に個々の児童・生徒の学力向上のためと捉えると、全数調査が必要となります。しかし、学力テストの結果をどのように活用するかということが明らかにされてないまま実施すれば、すなわち逆の逆の見方をすれば、全教員の指導力を調査することにもつながります。
 荒川区では「区報」で学校毎の学力調査の結果が公開され、これをもとに親や子どもは学校を選択するとされています。これこそ、学力テストの結果が教師の指導力・学校の教育力の判断の目安に使われている典型的な例です。まさに全数調査が子どもの学力向上をねらったテストではないということを如実に明らかにしている例です。
 私は、現行の教育の問題点、文科省が進めている学習指導要領の問題点・教科書の持つ問題点なりを診断、分析するには、部分調査、抜き取り検査で十分と考えます。これだと、費用も少なく済むし、時間もかかりません。さらに、多数の生徒に迷惑をかけずにすみます。逆に、限られた標本について、徹底的に分析できる利点があります。全数調査では、センター試験のような形式をとらざるを得ませんが、標本調査ならば、記述式の問題も、採用可能です。
 国際学力調査などで、日本の子どもは読解力や思考力に関する分野が弱いという結果が出ていることを考えると、学力調査では全数調査でなく標本調査でしかも、記述式の問題も織り交ぜて日本の子どもの学力を真に測ることのできる調査こそ望まれるところです。

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